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7月3日イベント 市民向けシンポジウム @ 慶應義塾大学 三田キャンパス

立て続けにイベント告知です。参加者はイサベラ・ロヴィーン氏に加えて、大学の専門家、NGOの方、漁協の方、ジャーナリストの方など、非常に多彩な顔ぶれですので、興味深い議論になることを期待しています。参加費は無料ですが、この記事の最後のほうに協賛のお願いを載せています。今回の企画は、非常に厳しい予算の中で、様々な方の協力に支えられながら行っておりますので、協賛のほうも是非ともよろしくお願い致します。

COP10 100日前緊急イベント 海の生物多様性を考える
スウェーデン環境党・欧州議会議員 / 『沈黙の海』著者
イサベラ・ロヴィーンさん来日シンポジウム


魚が食べられなくなる?
〜漁業と流通、消費を問い直す〜

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■ 日時: 2010年7月3日(土) 13:00〜17:30(会場12:30)
■ 会場: 慶應義塾大学 三田キャンパス 南館地下4階ディスタンスラーニングルーム
■ 参加費: 無料
■ お申込み方法
6月29日までに(1)お名前、(2)ご所属、(3)ご連絡先(メールアドレスあるいは電話番号)を明記の上 sakana0703@gmail.com までお申し込みください。

■ 共催: EU Studies Institute in Tokyo (EUSI)、持続可能なスウェーデン協会、グリーンピース・ジャパン、アジア太平洋資料センター(PARC)
■ 協賛: パタゴニア日本支社

■ プログラム(予定)
12:30 開場
13:00 あいさつ 田中俊郎氏(慶應義塾大学教員/EUSI所長)
13:05 イサベラ・ロヴィーン氏講演(逐次通訳)
     「水産資源は急速に枯渇している〜EUの事例から」
14:05 勝川俊雄氏(三重大学)講演
     「日本の漁業管理の現状と課題」
14:20 アジア太平洋資料センター制作DVD上映
     「食べるためのマグロ、売るためのマグロ」
14:55 花岡和佳男氏(グリーンピース・ジャパン)講演
     「水産物流通の現状と問題点」
15:25 アジア太平洋資料センター制作DVD上映
     「食卓と海 水産資源を活かし、守る」
16:00 大野一敏氏(船橋市漁業協同組合)講演
     「漁業から見る海洋環境保全の必要性」
16:15 パネルディスカッション
     「いかに管理し、いかに食べるか」 モデレーター:井田徹治氏(共同通信社)

「いかに管理し」では、EU、日本、国際的な水産資源管理の現状と課題、海洋環境保全の必要性、海洋保護区などについて、「いかに食べるか」では、消費者に対してどう魚を食べるのかということ(日本の水産物輸入によってどんな影響が起きているのか、翻って地場の漁業者が獲った魚の市場が奪われてしまっているのではないかなど)を議論します。

17:15 あいさつ
17:20 終了予定

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魚や貝、海藻など、海からもたらされる恵みは、古くから私たちの食卓を支えてきました。しかし、こうした水産資源が枯渇しつつあることが世界中で懸念されています。本来、これらの資源は自然の営みの中で子孫を残し、再生産し続けます。しかし、その力を超えるほどの量が獲られ続けてきました。同様に魚や貝が生育できる環境も失われています。

国連食糧農業機関は、世界の水産資源の4分の3が限界まで獲られてしまっていると警告、2015年に不足する魚介類の量は世界でおよそ1,100万トンと予想しています。これは、日本で1年間に消費する魚介類とほぼ同量です。

実際にこれだけの魚介類が不足すれば、価格の高騰は避けられません。タンパク質を魚介類に依存する世界の貧困層への影響は深刻ですし、日本の食卓にとっても人ごとではありません。
 
2010年10月、名古屋でCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)が開催されます。私たちの暮らしを支える豊かな生態系を保全し、将来にわたって利用し続けていくために、締結国が話し合います。
 
その100日前にあたる7月3日(土)に、スウェーデンから、ヨーロッパの資源枯渇を告発したジャーナリストであり、現在は欧州議会議員として水産行政の改革に関わっているイサベラ・ロヴィーンさんをお迎えし、「魚を食べ続けていくために」という視点から海の生物多様性を考えるシンポジウムを企画しました。

クロマグロの禁輸が話題になり、水産資源の枯渇が懸念されていることは身近な話題になりつつあります。しかし、どのような生産・流通・消費構造の中でそうした状況が起こっているのかということはあまり知られていません。

本シンポジウムでは、この点にもスポットをあて、私たちの画一的な消費のあり方自体が、乱獲や環境に負荷をかけるような養殖に結びついていることを明らかにしていきます。
また、持続可能な漁業を行なう事例も紹介しながら、そうした漁業を支える「持続可能な水産物消費」についても考えます。

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■ スピーカー、モデレーター紹介
Isabella Lövin (イサベラ・ロヴィーン)
 スウェーデン環境党・欧州議会議員

1963年生まれ、ストックホルム在住。消費者・食・環境の問題を専門に扱うジャーナリストとして活躍。2007年夏にスウェーデンにて出版した『沈黙の海 − 最後の食用魚を追い求めて』では、乱獲によってスウェーデン近海やヨーロッパ・世界における水産資源が枯渇に瀕していることに警鐘をならし、人々の関心を大きく高めることとなった。2007年ジャーナリスト大賞、2007年環境ジャーナリスト賞を受賞。2009年6月の欧州議会選挙に環境党から立候補し当選。


勝川俊雄 (かつかわ・としお)
 三重大学生物資源学部准教授

1972年、東京生まれ。東京大学農学生命科学研究科にて博士号取得した後、東京大学海洋研究所助教を経て、現職。研究テーマは、水産資源を持続的に利用するための資源管理戦略の研究、希少生物保全のための持続性の評価など多岐にわたる。現在は、ノルウェー、ニュージーランド、オーストラリア、米国などの漁業の現場を周り、世界各国の資源管理制度の比較研究に力を入れている。業界紙、ブログなど様々なメディアで、日本の漁業改革の議論をリードしてきた。日本水産学会論文賞、日本水産学会奨励賞を受賞。


花岡和佳男(はなおか・わかお)
 国際環境NGO グリーンピース・ジャパン 海洋生態系問題担当

2000年から2002年までアメリカ・フロリダでマナティーやウミガメの保護活動に参加し、その後マレーシアにてマングローブを伐採しないエビの養殖施設の立ち上げに貢献。2007年よりグリーンピース・ジャパンに所属し、沖縄ジュゴン、違法漁業、捕鯨、過剰漁業といった海の生物多様性を守るキャンペーンを展開している。2008年の国際捕鯨委員会(IWC)では、約30年ぶりに会場内でのNGOに発言権が与えられ、30を超えるNGOの代表としてスピーチを行い、各国政府に実質商業捕鯨の中止を訴えた。国内では現在、太平洋クロマグロの過剰漁業を問題視し、漁港や市場などを巡り調査を行ったり、過剰漁業や漁業管理についてのシンポジウムを開催するなどして、海洋保護区の設立に向けた活動に注力している。


大野一敏(おおの・かずとし)
 船橋市漁業協同組合代表理事組合長

江戸時代から続く網元の家に生まれ、60年にわたり東京湾で漁業を営む。経済成長の中で海の環境が変化することに危機感を覚え、サンフランシスコ湾保全運動などを研究。湾はかけがえのない天然資源であるという信念のもと、埋め立て反対運動などを通し、東京湾最奧に残された干潟、三番瀬の保全に関わる。著書に『東京湾で魚を追う』。


井田徹治(いだ・てつじ)
 共同通信科学部編集委員

1959年12月東京生まれ。1983年、東京大学文学部卒、共同通信社に入社。1991年、本社科学部記者。2001年から2004年まで、ワシントン支局特派員(科学担当)。現在、同社編集委員。環境と開発の問題を長く取材、気候変動に関する政府間パネル総会、気候変動枠組み条約締約国会議、ワシントン条約締約国会議、環境・開発サミット(ヨハネスブルグ)、国際捕鯨委員会総会など多くの国際会議も取材している。著書に「サバがトロより高くなる日 危機に立つ世界の漁業資源」(講談社現代新書)、「ウナギ 地球環境を語る魚」(岩波新書)、「生物多様性とは何か」(岩波新書)など。


■ 上映作品紹介
「食べるためのマグロ、売るためのマグロ」2008年 31分
http://parc-jp.org/video/sakuhin/maguro.html
マグロを切り口に、グローバルなフードビジネスが私たちの食卓や環境に与えている影響を探り、「マグロが食べられなくなる」ような状況が生み出された背景に迫る。

「食卓と海 水産資源を活かし、守る」2009年 34分
http://parc-jp.org/video/sakuhin/sakana.html
マグロだけでなく水産資源全体の枯渇が世界的に懸念される中、資源を利用しながら保全するコミュニティの実践を追う。「持続可能」な漁業のあり方を考えると同時に、海の恵みを長く楽しむための「食べ方」を考える。

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■ 協賛のお願い
このシンポジウムは、ご協賛いただける方/団体を募っています。
ご協賛くださる方は sakana0703@gmail.comまでご一報の上、下記口座へ協賛金をお振込みください。

【団体】 協賛金 1口 10000 円(1口以上何口でも可)
【個人】 協賛金 1口 2000 円(1口以上何口でも可)

【お振り込み先】
お振込先口座:三井住友銀行神田支店 普通預金 7962767
口座名義:特定非営利活動法人アジア太平洋資料センター

*お振り込みの際は、お名前の前に0703をつけてください。

# by silent-ocean | 2010-06-21 20:21

7月1日イベント 「持続可能な水産行政に向けて」 @ スウェーデン大使館

スウェーデン・EU・日本
持続可能な水産行政に向けて


『沈黙の海』著者 イサベラ・ロヴィーン欧州議会議員を迎え

2010年10月、名古屋で開催されるCOP10(生物多様性国連会議)を視野に入れながら
恵み豊な海をよりよく管理する国際協力の可能性を探る


EUが共通漁業政策のもとで管理している海域は、いまやバルト海から黒海、地中海、北海、大西洋におよび、EU加盟国の陸地の合計よりも広い。しかし2002年、EUは自分たちが行ってきた政策を振り返り、水産資源の持続可能性を考慮しないずさんな行政によってヨーロッパの海の各地で乱獲が行われてきたことを報告書の中で指摘した。それ以降、徐々にではあるが、水産資源のよりよい管理と活用のための取り組みが試みられている。

10月に名古屋で開かれる生物多様性に関する国連会議COP10では、海洋環境も重要なテーマである。そして、多様性の維持は、多種多様な魚を季節に合わせて食べてきた日本の食文化の発展と漁業の活性化とも合致する。EUと日本はこれまでの経験の中から何をお互いに学びあうことができるだろうか?今後も魚食文化を大切にし、安心して魚を食べ続けるという共通の目標のもとで、あるべき漁業政策について論じてみたい。

会場 :スウェーデン大使館オーディトリアム http://www.sweden.or.jp/
 地下鉄南北線六本木一丁目駅、日比谷線神谷町駅歩いて10分
日時 :2010年7月1日(木) 14:00-17:30 (開場:13:30)
主催 :持続可能なスウェーデン協会(Sustainable Sweden Association)
協力 :水産庁、スウェーデン大使館、EU代表部、財団法人ハイライフ研究所
参加費:無料
申込み:6月25日までに、お名前、所属、当日の連絡メールアドレスあるいは電話番号を明記の上 VZQ11450@nifty.ne.jpにご連絡ください。


プログラム

開会挨拶 14:00
 ヘイス・ベレンツ(Gijs Berends )駐日欧州委員会代表部通商部一等書記官

【講演】 14:10-15:10 
 イサベラ・ロヴィーン(Isabella Lövin)、「沈黙の海 — 最後の食用魚を求めて」著者
 欧州議会議員(スウェーデン環境党)
 「生態系の視点から見たEUとスウェーデンの漁業政策、現状と最近の動き」
 逐次通訳:佐藤吉宗(よしひろ)、「沈黙の海」訳者(英語/日本語)

【講演】 15:10-15:35
 大橋貴則(おおはし たかのり)、水産庁漁政部企画課
 「日本の漁業や資源、海洋環境の現状と政府の対応策について」

休憩・名刺交換の機会 15:30-15:50  

【対談・質疑】
 テーマ:「持続可能な社会に向けて」
 対談者:イサベラ・ロヴィーン、大橋貴則
モデレーター:佐藤吉宗

終了 17:30
  
司会:佐々木晃子

講演者のプロフィールなど詳しい情報はこのPDF文書をクリック

# by silent-ocean | 2010-06-15 07:42

イサベラ・ロヴィーン氏の来日イベント告知

ここ2ヶ月ほどのあいだ帰宅後から夜遅くまで、共同企画者たちと計画を練ってきましたが、企画の概要がだいたい固まってきました。

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『沈黙の海』著者 イサベラ・ロヴィーン(Isabella Lövin)氏の来日イベント
2010年6月27日より7月4日まで日本滞在


来日企画全体の主催者:持続可能なスウェーデン協会


イサベラ・ロヴィーン(Isabella Lövin)
『沈黙の海―最後の食用魚を求めて』著者
EU・欧州議会議員(スウェーデン環境党所属)


「私たちが日頃好んで食べているタラはいつまで食べられるか?」スウェーデン人の女性ジャーナリスト、イサベラ・ロヴィーン氏は、3年がかりの調査の末に2007年夏に出版したドキュメンタリー本『沈黙の海』の中でこう問いかけた。人々が普段目にすることのない海の下で、乱獲のために水産資源が大きく枯渇しているという情報は、スウェーデンの人々の関心を釘付けにし、その年のベストセラーの一つとなった。

スウェーデンでは昔からタラが大衆魚として食べられてきたが、現在の漁獲量は最盛期の2割を下回っている。近海に生息するタラの総量が大きく減少したためである。また、スウェーデンに漂流してくるヨーロッパウナギの数は主に養殖を目的とした乱獲のために過去数十年で激減し、このままでは近い将来絶滅する恐れすらある。

国際海洋探査委員会(ICES)は、ヨーロッパ近海に生息する魚種の8割が乱獲にさらされていると警告を発している。EUは研究者の声を無視した過大な漁獲枠を長年にわたって設定してきたが、2002年に発行した報告書の中で、水産資源の持続可能性を考慮しないずさんな行政が行われてきたことを自ら認めた。世界の海でも、乱獲による水産資源の枯渇が危惧されている。

では、水産業界がすべて悪いのかというとそうではなく、資源の持続可能性を考慮しながら、消費者に安心して食べられる魚を提供している沿岸漁業の漁師たちもいる。一方で、近代的な技術を駆使して、魚の群れを丸ごと獲ってしまうような産業的漁業を行っている沖合・遠洋漁業の漁師たちもいる。彼らのなかには、ヨーロッパで魚が獲れなくなったためにアフリカ沖合いにはるばる出かけてまでも漁を続ける者もいる。そして、沿岸漁民の生活の糧を奪い、途上国での貧困を助長している。また、世界的に漁獲が減るなか養殖が今後の漁業を支えるという見方もあるものの、餌や稚魚を自然界に頼っている場合が多く、養殖に多大な期待をかけることは危険である。これらのことが、本書の中で明らかにされている。

問題は、漁業と水産資源、そして海洋生態系を私たちがいかに管理するか、ということである。著者イサベラ・ロヴィーン氏は著書の中で指摘したEU行政の改革に自ら携わりたいと考え、2009年6月に行われたEUの欧州議会の選挙にスウェーデン環境党から立候補し見事当選を果たした。彼女は現在、欧州議会の漁業委員会の一員として、2012年に正式決定されるEUの漁業政策改革に向けた議論を行っている。

『沈黙の海』の邦訳版2009年11月に日本で発売された。今年10月には名古屋で国連生物多様性条約の締約国会議(COP10)が開催されるが、それに先駆けて「持続可能なスウェーデン協会」は、著者イサベラ・ロヴィーン氏を6月28日から7月4日の間、日本に招待する。この期間中、ロヴィーン氏は日本の水産研究者や水産庁、環境省、NGOなどと情報交換の場を持ち、幅広い様々な意見に触れる予定である。一般市民向けのシンポジウムも企画している。

魚というと、食料源や経済資源と捉えられることはあっても、海の生態系を織りなす重要な構成要素と見なすことは普段あまりない。海洋生態系や水産資源の持続的な管理と、今後も安心して魚を食べ続けたいという目標は、日本もヨーロッパも共通である。その目標に向けて、ではCOP10において海洋環境の重要性をどう訴えていくかを考える場にしたい。


<日本滞在中の主な予定>
6月27日(日) 日本到着
  28日(月) 視察など
  29日(火) 東京大学にて日本の研究者の方々との会合
  30日(水)

7月 1日(木) スウェーデン大使館にて水産庁とのシンポジウム
テーマ「スウェーデン・EU・日本 ― 持続可能な水産行政に向けて」

   2日(金)

   3日(土) 市民向けシンポジウム(東京都内)
テーマ「魚を食べ続けるために ― 持続可能な水産物生産・流通・消費と生物多様性を考える」

   4日(日)日本出発

一般公開となるイベントは7月1日のスウェーデン大使館でのシンポジウムと、7月3日の市民向けシンポジウムです。詳細な案内はもうすぐ完成しますので、ここで紹介します。水産資源の持続可能性や水産行政について関心がある方は、時間を空けておいてくださいね。私も通訳や司会、モデレーターとして、全日程に参加します。

# by silent-ocean | 2010-06-11 23:25

スウェーデン初の海中国立公園

スウェーデンで第29番目となる国立公園が、2009年9月に制定された。この国で一番最初の国立公園が制定されてから100年目という、節目の年に設置されたこの国立公園は、それまでの国立公園とは少し違う。なぜかというと、その大部分が海中に位置しているからだ。

この「コステル海国立公園(Kosterhavets Nationalpark)」は、スウェーデン西海岸あるコステル諸島の周りのコステル海に位置し、ノルウェー国境と接している。下の地図に引かれた黒線がスウェーデンとノルウェーの国境だが、その線がそのまま海に伸びて、両国の領海を隔てている。その南北にそれぞれ赤線で囲まれた国立公園があるのが分かるだろう。このノルウェー側とスウェーデン側の海域が、今回それぞれ同時に国立公園に指定されたのだ。

スウェーデン側のコステル海国立公園フィヨルドの一つで、一番深いところは水深200メートルくらいだ。スウェーデン西海岸の他の海域に比べて水温が低く、塩分濃度が高い。そのため、海洋生物の多様性が大きいサンゴ礁や腕足動物をはじめ、6000種類の生物がこの海域で確認されている。そして、この生物多様性を今後も維持して後世の世代へと受け継いで行くために、スウェーデン議会は2008年に国立公園に指定することを決定したのである。


しかし、一つの問題が指摘されている。国立公園に指定はされたものの、底曳きトロール漁の禁止は行われないことである。底曳きトロール漁は、通常カレイやタラなどの底魚を漁獲するために用いられる漁法であり、この海域ではこの漁法によって特にエビ漁が営まれている。ただし、底曳きトロール漁は海底を引っ掻き回し、そこにある生態系を破壊してしまう

この海域には、かつては今以上に多くのサンゴ礁が存在していたが、1970年までに大部分が死滅してしまった。盛んに行われた底曳きトロール漁が原因だと、海洋生物学の専門家は見ている。今回の国立公園指定は、まさに僅かに残された生態系を守ることを目的としていたのだった。現在、サンゴ礁が存在するのはコステル海のごく限られた部分だが、そこでは確かに底曳きトロール漁が禁止されることにはなった。しかし、保護することが求められているのはサンゴ礁の他にも様々な底生動植物があるにもかかわらず、底曳きトロール漁が禁止されるのはコステル海国立公園のわずか2%にすぎない。一方、同時期に国立公園に指定されることになったノルウェー側の海域では、その10%で底曳きトロール漁が禁止されることになった。

このように、底曳きトロール漁が今後も海域の大部分で続けられることに対しては懸念が多いが、国立公園に囲まれたコステル諸島には約320人の住民が暮らし、主に漁業(エビ漁)や遊漁、観光業で生計を立てているため、国立公園指定に向けた協議の中で底曳きトロール漁の禁止を盛り込むことは難しかったようだ。(ちなみに、夏の間はリゾート客のために島に居住・滞在する人の数は8000人に膨れ上がる)

他方、漁師の側は環境への負荷を少しでも減らす工夫をしている。例えば、底曳きトロール漁によるエビ漁では、タラやカレイなどの混獲が懸念されたが、現在は網の入り口に格子をつけることで魚が網に入るのを防ぐことが義務付けられている。そのような工夫によって、漁師の中にはマリン・エコラベルなどの認証を取得しているものもいる。では、底曳きトロール漁以外にエビを獲る方法はないかというと、現在は籠による漁法の研究が続けられているがまだ実際にはほとんど用いられていない。



このような問題があるものの、残された貴重な生態系が国立公園の指定によって保護され、回復していくならば、今後はエコツーリズムが盛んになり、また、魚の産卵場所が拡大していけば漁業にも良い効果をもたらすことが期待される。一方、底曳きトロール漁をどの海域で許可するかについては、今後も議論が続けられていくだろう。

<出典>
2009年9月6日付 日刊紙Dagens Nyheterの科学面に掲載された記事を元に作成

# by silent-ocean | 2010-06-08 23:25

2009年7月-選挙後初の欧州議会開催

6月はじめに行われた欧州議会選挙で無事に当選を果たしたイサベラ・ロヴィーン。彼女を含め、EU27加盟国から選出された総勢736人の議員は早くも7月に、ベルギーの首都ブリュッセルに置かれた欧州議会に終結し、選挙後初めての会合を持った。ここでは、委員会メンバーの決定が行われた。

日本の国会と同様、細かい政策議論を行うために、議員は各委員会に配分される。欧州議会には20ほどの委員会が存在する。

イサベラの希望は、もちろん漁業委員会に所属すること。それに加え、途上国への国際援助を議論する開発委員会にも興味を示していた。欧州委員会での議論の結果、イサベラは希望通り、漁業委員会と開発委員会の正規メンバーとなった。

では、漁業委員会の議長ポストには誰が選出されたのかというと、カルメン・フラガ議員。どこかで聞いた覚えのある名前だって? そう『沈黙の海』の第8章に登場するスペイン選出の女性議員だ。スペインの漁業関係者を代弁している彼女は、水産資源の保全や漁業の抑制にことごとく反対していた。その彼女が漁業委員会の議長になったのだ。しかし、これは何も初めてのことではなく、1997年から1999年にかけても議長ポストに就いていた。

余談だが、この漁業委員会には、ある有名人物もメンバーとなった。それは、フランス選出ジャン=マリー・ル・ペン議員。彼は、極右政党であるフランス国民戦線の党首として知られるが、欧州議会議員でもあったのだ。

# by silent-ocean | 2010-02-21 06:21