スウェーデン初の海中国立公園

スウェーデンで第29番目となる国立公園が、2009年9月に制定された。この国で一番最初の国立公園が制定されてから100年目という、節目の年に設置されたこの国立公園は、それまでの国立公園とは少し違う。なぜかというと、その大部分が海中に位置しているからだ。

この「コステル海国立公園(Kosterhavets Nationalpark)」は、スウェーデン西海岸あるコステル諸島の周りのコステル海に位置し、ノルウェー国境と接している。下の地図に引かれた黒線がスウェーデンとノルウェーの国境だが、その線がそのまま海に伸びて、両国の領海を隔てている。その南北にそれぞれ赤線で囲まれた国立公園があるのが分かるだろう。このノルウェー側とスウェーデン側の海域が、今回それぞれ同時に国立公園に指定されたのだ。

スウェーデン側のコステル海国立公園フィヨルドの一つで、一番深いところは水深200メートルくらいだ。スウェーデン西海岸の他の海域に比べて水温が低く、塩分濃度が高い。そのため、海洋生物の多様性が大きいサンゴ礁や腕足動物をはじめ、6000種類の生物がこの海域で確認されている。そして、この生物多様性を今後も維持して後世の世代へと受け継いで行くために、スウェーデン議会は2008年に国立公園に指定することを決定したのである。


しかし、一つの問題が指摘されている。国立公園に指定はされたものの、底曳きトロール漁の禁止は行われないことである。底曳きトロール漁は、通常カレイやタラなどの底魚を漁獲するために用いられる漁法であり、この海域ではこの漁法によって特にエビ漁が営まれている。ただし、底曳きトロール漁は海底を引っ掻き回し、そこにある生態系を破壊してしまう

この海域には、かつては今以上に多くのサンゴ礁が存在していたが、1970年までに大部分が死滅してしまった。盛んに行われた底曳きトロール漁が原因だと、海洋生物学の専門家は見ている。今回の国立公園指定は、まさに僅かに残された生態系を守ることを目的としていたのだった。現在、サンゴ礁が存在するのはコステル海のごく限られた部分だが、そこでは確かに底曳きトロール漁が禁止されることにはなった。しかし、保護することが求められているのはサンゴ礁の他にも様々な底生動植物があるにもかかわらず、底曳きトロール漁が禁止されるのはコステル海国立公園のわずか2%にすぎない。一方、同時期に国立公園に指定されることになったノルウェー側の海域では、その10%で底曳きトロール漁が禁止されることになった。

このように、底曳きトロール漁が今後も海域の大部分で続けられることに対しては懸念が多いが、国立公園に囲まれたコステル諸島には約320人の住民が暮らし、主に漁業(エビ漁)や遊漁、観光業で生計を立てているため、国立公園指定に向けた協議の中で底曳きトロール漁の禁止を盛り込むことは難しかったようだ。(ちなみに、夏の間はリゾート客のために島に居住・滞在する人の数は8000人に膨れ上がる)

他方、漁師の側は環境への負荷を少しでも減らす工夫をしている。例えば、底曳きトロール漁によるエビ漁では、タラやカレイなどの混獲が懸念されたが、現在は網の入り口に格子をつけることで魚が網に入るのを防ぐことが義務付けられている。そのような工夫によって、漁師の中にはマリン・エコラベルなどの認証を取得しているものもいる。では、底曳きトロール漁以外にエビを獲る方法はないかというと、現在は籠による漁法の研究が続けられているがまだ実際にはほとんど用いられていない。



このような問題があるものの、残された貴重な生態系が国立公園の指定によって保護され、回復していくならば、今後はエコツーリズムが盛んになり、また、魚の産卵場所が拡大していけば漁業にも良い効果をもたらすことが期待される。一方、底曳きトロール漁をどの海域で許可するかについては、今後も議論が続けられていくだろう。

<出典>
2009年9月6日付 日刊紙Dagens Nyheterの科学面に掲載された記事を元に作成

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by silent-ocean | 2010-06-08 23:25

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